「すぐ良くなる」を求めるほど、腰痛は長引いていく
痛みを繰り返す理由を、エビデンスと臨床の視点から整理しておく
ぎっくり腰の相談で多いのが、
「この痛みを今日どうにかしてほしい」
「一回で動けるようになりたい」
という言葉です。
もちろん、今の痛みが強いのはわかりますし、少しでも楽にしたい気持ちは自然です。
ただ、冷静に考えると、
ぎっくり腰の本質は “今日どうなるか” より “明日以降どうなるか” です。
その理由は単純で、
ぎっくり腰は 再発しやすい体の状態 をつくりやすいからです。
今日はその部分を、研究データと臨床経験の両方からまとめておきます。
■ ぎっくり腰の再発率は“1年以内に60%”
まず前提として、ぎっくり腰は一度なると再発しやすいです。
これは感覚ではなく、はっきり数字として出ています。
1年以内の再発率:60%(da Silva et al., 2019)
つまり、半数以上の人が「またやる」わけです。
これは運でも体質でもなく、体の中に再発しやすい原因が残っている という意味です。
■ レントゲンに写らない“腰の芯の筋肉”が弱る
ぎっくり腰になると、腰の奥深くにある「多裂筋」という筋肉が萎縮します。
この多裂筋は、背骨を細かく支える“天然のコルセット”のような存在です。
問題はここです。
ぎっくり腰の24時間以内に、多裂筋の萎縮が始まる。
しかも痛みが引いても自然には戻らない。(Hides et al., 2019)
つまり、
・痛みは数日で消える
・でも腰の大事な筋肉は弱ったまま
この「身体の中のズレ」が、再発しやすい土台になります。
あなたも経験があるかもしれません。
“完全に治っていないのに、治った気になって生活を戻す”
これが再発の入り口になります。
■ 心の状態も再発に影響する(意外と見落とされる部分)
ぎっくり腰の人に多いのが、
「また痛くなったらどうしよう」
「腰が怖い」
という“痛みへの恐怖”です。
研究では、
痛みへの恐怖や不安が、再発リスクを上げる
というはっきりしたデータがあります。(Nicholas et al., 2011)
身体が固まり、動きが小さくなることで、
腰全体の機能が下がり、さらに多裂筋が働きづらくなります。
■ “生活習慣の乱れ”が体の中の炎症を高め、腰痛を長引かせる
研究では、以下の項目が腰痛の発症・再発と関連します:
・睡眠不足(Zhu et al., 2023)
・肥満(Zhang et al., 2023)
・血糖コントロール不良(Pozzoli et al., 2021)
これらはすべて
体の中の炎症を高める要素 です。
つまり、
「腰に負担がかかったから痛い」というより、
“身体全体のコンディションが乱れ、痛みを出しやすい体になっているだけ”
という見方が現代的です。
腰はその「出口」であって「原因」ではないことが多いです。
■ 痛みが軽くなる=治った、ではない
ここが一番勘違いされやすいポイントです。
ぎっくり腰は、数日〜1週間で痛みが軽くなることが多い。
でも、それは 炎症が収まっただけ です。
・多裂筋は弱ったまま
・痛みへの恐怖は残る
・生活習慣は変わっていない
・身体の炎症はそのまま
これでは、
再発しない方がむしろ奇跡 です。
ぎっくり腰は、
“痛みが消えたタイミングこそ、再発の準備に入っている”
と言っていい状態です。
■ では、再発を防ぐために何をすべきか
① 多裂筋を元に戻す(放置では戻らない)
これは一般的な腹筋・背筋では鍛えられません。
特別な収縮の入れ方が必要です。
② 痛みへの恐怖を減らす
“動かすと危ない”という思い込みを、正しい動きで上書きする必要があります。
③ 生活習慣(睡眠/食/ストレス)を整える
炎症を下げない限り、痛みはぶり返します。
この3つが揃って初めて、
“ぎっくり腰を繰り返さない身体”が作れていきます。
■ まとめ
ぎっくり腰の本質は、
その場で痛みを消すことではありません。
・多裂筋の萎縮
・痛みへの恐怖
・身体の炎症
・生活習慣の乱れ
・腰を守る機能の低下
こうした「見えない部分」が残ったままになると、
ぎっくり腰は何度でも繰り返されます。
逆に言えば、
ここを整えれば再発を防げる ということです。
「今回のぎっくり腰を最後にしたい」
そう思う方は、
痛みだけでなく“身体の中の状態”にも目を向けてみてください。